1998.10.22
 むかしむかし合衆国にて、グールドとバーンスタインがブラームスの第一協奏曲で共演することになった際、指揮者とピアニストが演奏解釈で意見の一致をみないまま本番に突入したのだという。指揮者は異例ながら、演奏前に聴衆に向かって事情をスピーチし、理解を求めたそうだ。
 この話は半ば伝説化していたのだが、今般くだんのスピーチも含めたライブ盤が出た。これを音盤屋の視聴コーナーで聴いてみて、思わず笑ってしまった。
 バーンスタインはさすがに話し上手というか、冒頭から「(わたしがいきなりスピーチなど始めたからといって)心配することはありません。グールド氏はちゃんと居ますよ」と笑わせる。いままでこの話を文章でだけ読んで、もう少し険悪な雰囲気なのかと思っていたが、わりあい和やかな様子。テンポ等に関する説明が多少あって「しかし今回あえて演奏会を開いたのは、この才能あるピアニストをご紹介するため」と、あくまでも寛容な姿勢を崩さない。
 しかし笑ったのは次のフレーズ。「それでも皆さんは疑問を持たれるでしょう。協奏曲の演奏においては『誰がボスなのか Who is the boss?』と」。聴衆は爆笑。さすがにバーンスタイン、一枚上手だ。

1998.10.20
 先週は久しぶりに演奏会に出かけた。昨年旗揚げ公演をした北欧アンサンブルの第二回定期演奏会。指揮は初回からの常任である中村ユリさん。例によってゲーゼ、グリーグといったスカンヂナヴィア方面の作曲家の作品でプログラムされていて、ビョルンソン、エングルンドといった、編集者には初耳の人達の曲も「日本初演」されていた。
 昨年もそうだったのだが、サントリーホール(小ホール)がほぼ満員。関係者も多いのだろうが、良い聴衆であり、北欧音楽への関心がとても高まっているのだと思う。編集者も遅ればせながら、ゲーゼやヴィレーン、ルーザース、リンドベリなどといった作曲家の録音を少しずつ聴き始めている。まだまだ未聴の世界がいっぱいあって嬉しい。

1998.10.05
 ながいこと更新をさぼってしまった。別に海外出張したとか、病気で寝込んでいたとかいうわけではないのだが、何となく気ぜわしかったり、へたばったりしているうちに10月になってしまったのである。いつも見にきて下さる方には毎度のことながら申し訳なく、1分間の平伏(_ _)。
 で、音盤一行感想番外(^o^)。

star star star star star star star star star star 村上秀一『Welcome to My Life』
村上"ポンタ"秀一 (ビクター VICL-60279)
 ポンタをご存知無い方は、お手持ちの国内ポップ・ミュージック系のCDを2-3枚手にとって、ライナーノーツでバックバンドを確かめて戴ければ、たいていドラムスかパーカッションに彼の名前が印刷されている筈。とにかく日本を代表するタイコ屋の一人である。その彼が出したシルバー・ジュビリー・アルバム。
 ゲストが凄い。ボーカルに山下達郎、矢野顕子、井上陽水、沢田研二、大貫妙子、桑田佳祐、清志郎 etc.、バンドに白井良明、チャー、国府弘子、高中正義、MALTA、小原礼、渡辺香津美 etc.、そして同業タイコ屋も森山威男、仙波清彦、PECKER、神保彰、日野元彦、森高千里 etc.。ここ25年の邦楽シーンをそのままもってきたかのような豪華メンバーで、なぜCD1枚に収まっているのか不思議なほど。
 オープニングから村田陽一&Solid Brassがビシッと決め、達郎のコール・ポーター、アッコちゃんの『青い山脈』(なんと彼女のバッキングで山下洋輔御大がソロをとってくれる!)、陽水の『Oh! Darling』とたたみかけるあたりが前半のハイライト。吉田美奈子の『Left Alone』もシブい。泉谷しげるの『ヨイトマケの唄』なんかもある。
 あらゆるジャンルの音楽がところ狭しと並べられるが、どの曲にもキッチリつけていくポンタがもう凄いすごい(^o^)。ここ数年はPONTA BOXなどでのリーダーアルバムも相次いでリリースされてきてはいるが、基本はライブでの他流試合、スタジオ・ミュージシャンとしての職人芸がこのアルバムでの人脈につながっている。何て豪勢なパーティだろう。とにかく必聴。(1998.10.02)

 というわけでポンタの新譜にゴキゲンなここ数日。ホントはサロネンの『とらわれ人』とかも聴いてるのだが、そのお話はまた後日に。


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